新・ ヒッチコック劇場
-Alfred Hitchcock Presents-
殺人二重奏
-Conversation Over a Corpse-
        
     アルフレッド・ヒッチコック

※ストーリーを載せていますので、TV映画をご覧になっていない方は、ご了承下さ い。

  毒殺〜〜金魚の糞〜〜埋め方〜〜止めてくれ〜〜銃声〜〜ウイスキー〜〜計略〜 

記号[☆:スタッフ・キャスト : 始めに :終わりに] web拍手 by FC2
(1980年代)(米)(TV映画)-Conversation Over a Corpse-
演出…ロバート・イスコブ
制作…タウンゼント・フィルム・プロ ダクションズ(米)
原作…ノーマン・ダニエルズ
脚本…マリオン・コックレル/ノーマ ン・ダニエルズ
出演…バーバラ・バブコック(シッシー)
ストーリーテラー…ア ルフレッド・ヒッチコック
翻訳…鈴木導

金に困って長年住んだ家をブレナー氏に売っ たものの、親戚のジェイク伯父から遺産が入ったので家を取り戻そうとするジョアナとシッシー(バー バラ・バブコック)
だ が、ブレナーは応じてくれない。
そ こでジョアナは彼を毒殺することを考える。
怖 がるシッシーに彼の紅茶に毒を盛るように言う。
シッ シー…「ジョアナ やめた方がいいんじゃ ないかしら
だって ブレナーさんは優しくて いい人なんですもの」と 反対するシッシー。
シッ シーに、
ジョ アナ…「ブレナーさんはね いい人なんか じゃないわ
悪賢くて 油断のできない人よ」
シッ シー…「でも…」
ジョ アナ…「私たち二人を騙して この家を盗 るつもり
シッシー あなたこの家から出て行きたいと思う?」
シッ シー…「嫌よ 行くところはないわ」
ジョ アナ…「私たちはもう若くないのよ この 歳で“他所へ行け”って言っても無理でしょ」と 言うジョアナ。
なおも反対するシッシーに、
ジョ アナ…「何時も言ってるでしょ あなたは 何回言ったら分かるの」と シッシーの腕を両手で捻り痛めつけるジョアナ。
シッ シー…「あっ ああ〜」
悲鳴を上げ痛がるシッシー。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコック

ジョアナ…「どうする か考える役目は 私に任せるの」
シッ シー…「痛いわ ジョアナ
手首が折れちゃうわ」
ジョ アナ…「何でも素直に 私が言った通りに するわね」
シッ シー…「言った通りにするから 手を離し て
痛いわ」と 泣きながら頼む。
手 を緩め、
ジョ アナ…「お金を返しても ブレナーさんは 受け取らないことは
ちょっと考えたら分かることでしょ」と 言いながらシッシーの手を撫で付けるジョアナ。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコックら

シッシー…「駄目なの  私にはお金のことは分からない」
シッ シーの手を離し、
ジョ アナ…「お金のことだけじゃないでしょわ  全てにとろいのと 言うジョアナ。
怯 えながらブレナーを持て成す準備をするシッシー。
毒 入り紅茶付きの。

Top

 〜 毒殺〜

クッキーを美味しそうに食べているブレナーに紅茶を勧めるジョアナ。
紅 茶を飲むブレナー。


『殺人二重奏』

ブレナー…「ウ〜ン  いい香りです」
紅 茶を飲んだか覗き込むジョアナ。
ジョ アナ…「お客様用のブレンドですの」
ブ レナーが用件を話し出す。
ブ レナー…「何時ここを出てっていただきます か」
シッ シー…「出て行く 困ったわ」
ブ レナー…「ウン じゃここにいるままで
家を取り壊しては 居心地が悪いでしょ」
シッ シー…「それでは私たちの家を 壊しちゃ うんですの」
興 奮しているシッシーに、
ジョ アナ…「落ち着きなさいシッシー」と 威圧し、ブレナーに、
ジョ アナ…「あの子は直ぐ興奮するんです」と 言う。
シッ シー…「何も壊さないでも 家の周りに ショッピングセンターを建てたら」
首 を横に振り、
ブ レナー…「無理ですよ 利用価値がないで しょ」
シッ シー…「この家が壊さちゃうなんて 耐え られないわ」
ブ レナー…「区役所にサインするときは 平気 だったでしょ」
ジョ アナ…「今は違います」
ブ レナー…「待ってください 今になって“気 が変わった”って言いたいんですか」
シッ シー…「その通りです 事情も変わった し」
ブ レナー…冗談じゃない! 契約も交わ して
もう金も払ってあるんです」
上 着のポケットから受取証を出す。
ブ レナー…「ほら
受け取りもある」
ジョ アナ…「契約書がどうなっていようと あ なたにこの家を売るつもりはないわ」
ブ レナー…そうはいかない 約束だ  行ってもらおう…」
薬が効いてくる。
シッ シー…「興奮すると 体によくありません わ
如何ですか もう一杯お茶をお飲みになりません」と ティーポットを手にする。
ブ レナー…「もうお茶はいらない “どうして も売らない”と言うなら
裁判に訴えて 思い知らせてやる
き・み・ら…」
言葉が途切れるブレナー。
ブ レナーの様子を見てシッシーに、
ジョ アナ…「お茶の道具は 全部片付けなさ い」と 言うジョアナ。
シッ シー…「ブレナーさんにもう一杯 飲ませ た方がいいんじゃない」と ティーポットを持ったまま怖々と言うシッシー。
ジョ アナ…「無駄よ これ以上は必要ないわ」
ブ レナー…「体が動かんぞ
うっ 何だこれは
私に何をした〜 あ  あ〜
ジョ アナ…「あなたは紅茶に入れた毒を飲んだ の 10人の人を殺せる毒よ」
ブ レナー…「うっ ん うん 私に毒を…うっ  う」
苦 し紛れに立ち上がろうとしたブレナーが前のめりする。
ジョ アナ…「掴まえなさい」
前 にいたシッシーがブレナーの体を掴みソファーに戻す。
ブ レナー…「あっ あ〜」
意 識が遠くなるブレナーに、
シッ シー…「全然苦しまずに 済んだでしょ」と 言うシッシー。
ジョ アナ…「さぁ 済んだわ」

Top

 〜金魚の糞〜

ワゴンに乗せた食器をキッチンに運ぶジョアナ。
後 ろからお皿を持って付いて来るシッシー。
ジョ アナ…「いいわね 全部揃ってる?」
シッ シー…「ええ それで全部よ
後はブレナーさん」
口 に手をあて、
ジョ アナ…「あ あ〜 どうすればいいのよ」と 言うジョアナ。
シッ シー…「そうね 毛布を被せておいたら」
ジョ アナ…「あ〜シッシー止めてよ あそこに 置いとけると思うの」
居 間へ急ぐジョアナ。
後 を追うシッシー。

Top

 〜 埋め方〜

居間へ行きながらシッシー。
シッ シー…「地下室に埋めたらどうかしら」
ジョ アナ…「駄目 床がコンクリートよ
だけど裏の物置なら 埋められるわね」
シッ シー…「そうよ 来週バーニーがお庭の手 入れに来た時に
穴掘ってもらえばいいの…」
ジョ アナ…「今直ぐやらなきゃ 駄目よ
シャベルを取ってきて」
シッ シー…「無理よ 私には朝まで掛かっても
穴は掘れない」と 泣き出しそうに言う。
ジョ アナ…「いいわよ 私も手伝うわ」
ブ レナーに近づき、
シッ シー…「死んだら体が固いんでしょ」と ブレナーの腕を持ち上げる。
ジョ アナ…「死んだばかりだからよ」
シッ シー…「ほら 腕一本でもこんなに重かっ た」
離 すシッシー。
“バタン”
ジョ アナ…「そうだわ いくつかに分けて運ん だらどうかしら」
シッ シー…「分けて
あっ でも後が大変よ
ママの絨毯も汚れるし」
ジョ アナ…「それもそうね」
考 え込む。
「分かったわ 使ってない井戸に投げ込んだら
どう」
シッ シー…「だって蓋がないじゃない」
ジョ アナ…「平気よ いらないものを何でも放 り込めばいいでしょ
これなら死体をバラバラにすることもないわ
運んでって 落すだけ」
シッ シー…「まるで生きてるみたい」
ジョ アナ…「さぁ 早くしましょ
あなたはそっちの足を持って あたしこっちをやるわ」
ブレナーの足を持とうと二人が屈む。
ブレナーの意識が戻り、目が開く。
持ち上げようと二人が顔を上げる。
ブレナーと目が合う。
ジョ アナ…「嫌だ! 生きてる」


『殺人二重奏』バーバラ・バブコックら

Top

 〜止めてくれ〜

ジョアナ…「世話がや けるわね また殺さなければいけないわ
どうやる 何か考えたらどうなの
あなたも一緒なのよ 私だけじゃないわ」と 言うジョアナ。
シッ シー…「分かってるわ
いいことがあるわ」と 他の部屋へ行くシッシー。
ブ レナー…「あああ〜」
体 を動かせないで唸るブレナー。
猟 銃を持ってきて、
シッ シー…「パパが使った猟銃」と 言うシッシー。
ジョ アナ…「そんな物で撃ったら 大きな音が するじゃないの」と 猟銃を取り上げソファーに置くジョアナ。
ジョ アナ…「私も何か考えるわ」
シッ シーに向かって救いを求め瞬きをするブレナー。
シッ シー…「ブレナーさん 眉毛を動かしてる わ」
鋭 い包丁を持ってきて、
ジョ アナ…「これなら間違いないでしょ」と 振り翳すジョアナ。
シッ シー…「ああっ! 待って」
見 開いた目を閉じるブレナー。
シッ シーの声に振り下ろした包丁を寸前のところで止めるジョアナ。
シッ シー…「ママの絨毯が台無しよ」
ジョ アナ…「ああ 忘れてたわ」
ホッ とするブレナー。
ジョ アナ…「あっ! 鈍器を使えばいいのよ
新聞の三面記事にもよく書いてあるでしょ
“犯人は鈍器で被害者を殺した”って」
鈍 器を探す二人。
引 き出しを開け、
シッ シー…「ジョアナこっち来て」と 言い木工用の小さい金槌を取り出すシッシー。
シッ シー…「いい物を見付けたわ」
ジョ アナ…「待って 今行くわ」
小 さい金槌を振り翳すシッシー。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコック

シッシー…「あっ!」
“そんなので”と嫌そうな顔をするブレナー。
シッ シー…「早く 頭を動かしたわ
これよ」
驚 いて来たジョアナに金槌を見せる。
ジョ アナ…「ああん こんなもんじゃ駄目 軽 過ぎるわよ」
 このシーンは大笑いしてしまった。
 コメディーだ。
ジョ アナが持ってきた棍棒をシッシーに差し出す。
ジョ アナ…「ほうら」
そ れを見て恐怖で顔が歪むブレナー。
シッ シー…「これなら重いわね きっと殺せる わ」と 言いジョアナの方にやるシッシー。
ジョ アナ…「勿論殺せるわよ」
受 け取らずにシッシーに戻すジョアナ。
棍 棒を見ているシッシー。
ジョ アナ…「早く叩きなさいな」
棍 棒を振り翳すシッシー。
目 を見開いてシッシーを見ていたブレナーが怖そうに目を閉じる。
ジョ アナ…「なにしてるの」
シッ シー…「駄目だわ 目を動かすんですも の」
棍 棒を振り翳したままで、泣きそうな声を出すシッシー。
ジョ アナ…「貸しなさい 私がやるわ」と 言い勢いよく棍棒を振り翳すジョアナ。
“もう駄目だ”と強く目を瞑るブレナー。
シッ シー…「ああ〜!」
口 に手をやり悲鳴を上げるシッシー。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコックら

ジョアナ…「ああっ」
驚 いて棍棒を落しそうになるジョアナ。
ジョ アナ…「変な声出さないでよ あたしまで 出来なくなったわ」
 大いに笑ってしまうシーンの連続だ。
ブ レナーの手が動き出す。
猫 がブレナーの顔の前の辺りをうろついているく。
口 に手をやり怯えているシッシー。
ジョ アナ…「仕様がない 何か他の方法を考え るわ」
ブ レナーの顔の前をうろついている猫を降ろしながら、
ジョ アナ…「あなたは そんなところに乗らな いの
考えが纏まらないでしょ
よく考えれば もっと手際のいいやり方があるはずだわ」と 言うジョアナ。
シッ シーが液体殺虫剤を持ってきてブレナーに振り掛ける。
シッ シー…「さあ ひと吹きで蠅が死ぬんだか ら」
噴 霧器をブレナーに掛け続ける。
“何をしだすのだ”と顔を背けるブレナー。
シッ シー…「全部掛ければ何とかなるわ」
噎 せそうになるブレナー。
シッ シー…「それにこれだと衛生的よ」
ブ レナー…「ワァ〜! クション」
驚 いた拍子に噴霧器を落す。
そ こにヒッチコックの雑誌が…
  とことん楽しませてくれる作品だ。
ジョ アナ…「なんてことしてくれるの 動き出 したじゃない
何とかしないと 起き上がって歩き始めるわ」
シッ シー…「また毒を飲ませたら」
驚 いてシッシーを見るブレナー。
シッ シー…「カプセルを全部使っちゃたわね」
“ああ〜”と顔を背けるブレナー。
ジョ アナ…「除草剤よ まだ物置にあったわ
いい もし動き出したら これで叩くのよ」と、 あの小さい金槌をシッシーに渡す。
“あれかよ 止めてくれよ”と顔を歪めるブレナー。
  意識が戻ってしまったブレナーを、“ど う殺そうか”と四苦八苦するのが実にコ ミカルに描かれている。

Top

 〜 計略〜

小さい金槌を持って不安そうに、出て行ったジョアナの方を見ているシッシー。
やっ と動かせる手でシッシーを招き、気付いてもらおうと必死に声を出すブレナー。
ブ レナー…「ああ〜っ あっ あ〜」
咳 き込みながら、
ブ レナー…「シッシーさん」
驚 いて振り向くシッシー。
ブ レナー…「あ〜 お願いです」と 必死に声を出し頼むブレナー。
怖々 とブレナーに近づくシッシー。
ブ レナー…「警察へ電話を〜 ああ〜
頼む
頼む」
シッ シー…「折角ですけどブレナーさん そん なこと出来ません」
ブ レナー…「あんたの姉さんは いかれてる」
怒っ て、
シッ シー…「何にも知らないくせに そんな言 い方しないで」と 足を踏み鳴らすシッシー。
ブ レナー…「私を“バラバラにして 運び出 す”と言ってたでしょ」
シッ シー…「ああっ あの人のことを言ってる の
お姉さんじゃないわ」
ブ レナー…「と言うと」
シッ シー…「名前はアビゲール」
驚 いてシッシーを見るブレナー。
息 を吐き、歩き出しながら、
シッ シー…「ジョアナの世話をするために来た の もうずっと前よ
30年前
パパはもう死んでて ママもその直ぐ後に死んだの
ジョアナを連れてったわ
頭がおかしいって
本当は違うの
私には分かってたわ」と 言うシッシー。
ブ レナー…「そんなことはいいから 警官を呼 んでくれないか」
シッ シー…「ブレナーさん そんな言い方失礼 じゃないですか
アビゲールの話は まだ終わってないのに」
ブ レナー…「アビゲールはどうでもいいさ!」
機 嫌が悪くなるシッシー。
そ れを見て、慌てて機嫌を取り直させようとするブレナー。
ブ レナー…「ああ そうか
分かった聞くよ」
満 足そうに続きを話し出すシッシー。
シッ シー…「アビゲールと“引っ越した方がい い”って言い出したの
そして 姉さんだと言うことにしておけば」
“こ んな話を聞いてる場合じゃないのに”と 思っているブレナー。
シッ シー…「“陰口を言われずに済む”って
私 酷いこと言う人たち 大っ嫌い
絞め殺してやりたくなるわ」
ブ レナー…「警察に電話してから 話を聞かせ てくれないか」
笑い出すシッシー。
シッ シー…「分かる アビゲールは長い間
ジョアナの振りをしてたんで 自分でもそう思ってるみたい
私も“そう思ってる”ときもあるわ」
ブ レナー…「…」
シッ シー…「ただ意地悪なの
あなたも」
ブレナーに顔を近づけ快く思っていないことを告げるシッシー。
ブ レナー…「…」
“今度は此方に怒りが向けられて来た”と思っているブレナー。
シッ シー…「意地悪で おまけに欲張りで」
体 を起こし、
シッ シー…「お気の毒だけど あなたを殺すの を止めさせる気はないわ」と 言いソファーに腰掛けるシッシー。
ブ レナー…「あ〜 あ〜 立ち上がって
歩ければ〜 いいんだが」と 言いながら体を起こそうとするブレナー。
シッ シー…「ええ 残念ね
直ぐ歩けるようになるでしょうけど それじゃ遅いわ
それも私が言われた量の半分のお薬しか お茶に混ぜなかったお蔭よ」
ブ レナー…「半分の量?」
シッ シー…「そうよ さもなきゃ意識が戻らず 死んだでしょ」
ブ レナー…「命を助けてくれたんだ」
シッ シー…「酷いことは したくないの」と 言い手に持っていた木工用の小さな金槌をテーブルに置くシッシー。
ブ レナー…「一度助けたんなら もう一度やっ てくれ」
身 を乗り出してにこやかに言うブレナー。
驚 いてブレナーを見るシッシー。
シッ シー…「だって この家を取り上げる気で いるんでしょ」
ブ レナー…「約束するよ 嫌なら無理にとは言 わない」
シッ シー…「嘘じゃないと言う証拠は」
ブ レナー…「ジョアナが何を企んでるか 分か らないのか?」
シッ シー…「毒を飲ませようとしてるわ」
ブ レナー…「“あんたが殺した”と 言うつも りだ
“全部あんたの考えだ”って」
シッ シー…「そんなことは しないわ」
ブ レナー…「言うに決まってるさ 分からんの かね
あの女は“あんたがおかしい”と言うことにして
病院に入れちまう気だ」
シッ シー…「まさかそんな」
ブ レナー…「全部あの女のものだ 家も金も
何もかにもだ!」
怯 え、今にも泣き出しそうに、
シッ シー…「どうすればいいの」と 言うシッシー。
シッ シーの様子を窺いながら、ソファーに置いてある銃を見て、
ブ レナー…「そこの銃を貸してくれ」と 言うブレナー。
シッ シー…「…」
ブ レナー…「頼むよ」
ブ レナーを見ているシッシー。

Top

 〜 銃声〜

キッチンでジョアナことアビゲールが、危険毒物と表示されている農薬を入れた飲み物を 掻き混ぜている。
シッ シーがキッチンに入って来る。
ア ビゲールの様子を横目で窺いながら、
シッ シー…「ジョワナ
“ブレナーさんを殺したのは私だ”って言うの?」
飲 み物を掻き混ぜながら、
ア ビゲール…「何い?」と 言うアビゲール。
ア ビゲールに近づき、
シッ シー…「“おかしくなって殺した”って言 う気なの」と 言うシッシー。
驚 いて顔を上げ、シッシーの方を向く。
ア ビゲール…「何故そんなこと言い出すの」と 言い再び飲み物を掻き混ぜるアビゲール。
シッ シー…「だって 本当の姉さんと同じに
私を病院に入れようと 思ってるんでしょ」
顔 を上げ、
ア ビゲール…「そんな馬鹿なこと どっから思 いついたのよ」と シッシーの方を向いて言う。
シッ シー…「ブレナーさん
今二人でお話したの」
一 人前として扱われた優越感を味わいながら言うシッシー。
  ブレナーはシッシーを利用しようとしているだけなのだが。
シッ シーを見て、
ア ビゲール…「シッシー」
シッ シーの両腕を掴み、覗き込むようにして、
「それ作り話?」と 言うアビゲール。


『殺人二重奏』

シッシー…「違うわ」
首 を捻りシッシーに鋭い視線を向けるアビゲール。
ア ビゲール…「…」
シッ シー…「あの人 よくなったみたい」
ア ビゲール…「…」
シッ シー…「だけど “どうしても家は買い取 る”って言ってる」
口 を挟みたいのを堪えて聞いているアビゲール。
状 況を知るために。
ア ビゲール…「…」
シッ シー…「何とかした方が いいんじゃない の」
シッ シーの話の筋が分かったアビゲールが斧を持ち、居間の方へ行く。
ア ビゲールがキッチンのドアを閉める音を確認すると、流しの下からウイスキーを取り出すシッシー。
“バア〜ン!”
銃 声が聞こえてくる。
音 に驚くが状況が分かっているシッシー。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコック

Top

 〜ウイスキー〜

シッシーが居間へ行く。
ブ レナーに撃たれたアビゲールが絨毯の上に倒れている。
猫 が動かなくなった飼い主の傍によって来て悲しそうに鳴き声をあげる。
ブ レナーが猟銃を持ったまま、アビゲールを見ている。
猟 銃を落し咳き込みながら電話器に手を伸ばす。
シッ シー…「ジョアナは死んだのかしら?」
ブ レナー…「ああ〜 私を殺そうとした 斧で だ」
微 笑むシッシー。
シッ シー…「何時でも 遣り過ぎるの」
電 話器を指差しながら、
ブ レナー…「それじゃ 警察に電話を頼む」と 言うブレナー。
シッ シー…「そう知らせた方がいいわね」
ブ レナーに近づき、
シッ シー…「でも その前にお聞きしたいこと があるの」と 言いソファーに座る。
シッ シー…「もう この家を買うなんて言わな いでしょ」
ブ レナー…「ああ〜 金は相場以上に払う」
シッ シー…「…」
ブ レナー…「独りでいるのに こんな大きい家 は必要ないだろ」
ブ レナーをじっと見ていたシッシーが、思い出したように後ろ手に隠していたグラスを出す。
シッ シー…「あっ これを飲んだらいかが 元 気が出るように」と 言いブレナーを見ながらテーブルにグラスを置くシッシー。
ブ レナー…「何です」
ウ イスキーを見せ、
シッ シー…「ウイスキー とてもいいものよ
10年も前からあるの」と グラスに注ぐシッシー。
ブ レナー…「ウイスキー」
嬉 しそうに笑い、
ブ レナー…「シッシーさん あんた気が利く」
シッ シーからグラスを受け取るブレナー。
ブ レナー…「“元気が出るように”か」


『殺人二重奏』

笑いながらウイスキーを飲む。
電 話器を手元に取り、
シッ シー…「警察に電話した方がいいんじゃな い」と 受話器をブレナーの目の前に差し出すシッシー。
美 味しいウイスキーを飲んで上機嫌のブレナーが受話器を受け取る。
ブ レナー…「本当に いいウイスキーだ」と シッシーに向かって杯を上げ飲む。
シッ シーがダイヤルを回し、警察へ繋ぐ。
ブ レナー…「もしもし ブレナーです
ブレナー不動産の
ええ そうです
今 私は…」
シッ シーの方を見て確認するように、
「トルーマンドライブにいるんです」と 言うブレナー。
シッ シー…「…」
ブ レナー…「何 エンライト姉妹を知ってるん ですか」
ブ レナーに近づきシッシー。
シッ シー…「“姉さんじゃない”って言って」
ブ レナー…「待って」
受 話口を塞いで、
ブ レナー…「ええっ?」と シッシーに耳を傾けるブレナー。
シッ シー…「“姉さんじゃない”って言うの  “無理やり 入り込んだ偽者”だって」
ブ レナー…「ああ そうか」
受 話器に向かって、
「警部さん」と 言おうとしているブレナーに、
シッ シー…「“助けたのは私で”」
受 話口を塞ぐブレナー。
シッ シー…「“ジョアナがあなたに 毒を飲ま せようとした”って言うの」
ブ レナー…「ああ そうだ
分かった」
受 話器に向かって、
「警部さん アハハハ ブレナーです
いいですか あのジョアナと言う女は
偽者で シッシーさんの実の姉じゃありません
看護婦として来て そのまま居座ったようです
う〜 死んでますよ」
ウ イスキーを飲む。
ブ レナー…「ああ〜
私が撃った」
ブ レナーを見るシッシー。
ブ レナー…「正当防衛で…
何が? ああ 勿論違いますよ
目が霞むだけです
ええっ ジョアナが飲み物に毒を入れまして
危なかった
シッシーさんが助けてくれた
ええっ ああ〜」
意 識がハッキリしなくなりながらシッシーを見るブレナー。
チ ラリとブレナーを見るシッシー。
息 遣いが荒くなるブレナー。 
ブ レナー…「エヘヘ あの女
裏庭に穴掘って 埋めるつもりだったんです
そして〜 どうもおかしいな グラグラ…
シッシーさんが助けてくれて… そいで…どうしたのかな」
受 話器を離し、
ブ レナー…「何しろ ジョアナに…」
ブ レナーを見ているシッシー。
シッ シーを見るブレナー。


『殺人二重奏』

毒を盛られたことに気が付くが、時遅く息絶えるブレナー。
ブ レナーの前に来て、
シッ シー…「どうもありがとう」と グラスをあげるシッシー。
「本当のこと 言ってくれて」
ア ビゲールの死体に向かって、
シッ シー…「あなたもよ ジョアナ
感謝してるわ」と 言い毒の入ってないウイスキーを飲むシッシー。
鏡 の前で立ち止まる。
そ して、鏡を見ながら髪を解し、ブラウスのボタンを外し、
シッ シー…「また あの素敵な警部さんが来て くださるかしら
あの逞しい胸」
胸 を出し鏡に見入っているシッシー。


『殺人二重奏』バーバラ・バブコックら

その鏡にはシッシーに謀られたブレナーとアビゲールの死体が映っている。
“こんな精神異常者に”と言っているかのように。

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 金に困って長年住んだ家をブレナーに売ったもの の、親戚の遺産が入り家を取り戻そうとするジョアナことアビゲールとシッシー。
  だが、ブレナーは応じてくれない。
  そこで彼を毒殺することをアビゲールが考え、シッシーに毒を盛るように指示する。
  しかし、シッシーは言われた分量の半分だけ入れた紅茶をブレナーに飲ませる。
  そして、意識が戻ったブレナーと交渉して、日々、抑圧し続けているアビゲールを始末してもらう。
  アビゲールを始末したブレナーに、残りの毒を入れたウイスキーを飲ませる。
  そのことを知らないブレナーは、シッシーが言った通りに、全てアビゲールがブレナー殺害を計画して実行した と警察に言う。
  毒が回ってきたときに謀られたとブレナーが気が付くが時遅しであった。

 シッシーは精神異常者だった。
  30年前に両親が殺害され、“姉ジョアナが殺したのでは”と噂が広まる。シッ シーが殺害したのかもしれないが。
  ジョアナは精神異常だと言うことで看護師アビゲールが付けられた。
  だが、大きな屋敷に興味を持ったアビゲールは、“自分を姉だと言う事にすれば 陰口を言われずに済む”と言い、ジョアナを病院へ入れジョアナに成り済まして住み着いたらしい。
  シッシーを脅しながら。

 アビゲールにしてもブレナーにしても、扱いやすいと思っていたシッシーに遣られると は思ってもいなかったことだろう。

 シッシーからすると、邪魔な二人を一度に抹殺でき、一石二鳥だった訳だ。
  それに、憧れの警部にも会えそうだと妖艶な女に変身するのだから驚きだ。
  ああ〜困り果てている警部の顔が浮かんできた。
  お気の毒様。

更新2007.10.2
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ヒッチコックがデザインしたという似顔絵

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参考文献
ヒッ チコック劇場
新・ ヒッチコック劇場
ア ルフレッド・ヒッチコック
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