新・ ヒッチコック劇場
-Alfred Hitchcock Presents-
ただ一度の殺意
-The Impatient Patient-
        
     アルフレッド・ヒッチコック

※ストーリーを載せていますので、TV映画をご覧になっていない方は、ご了承下さ い。

  〜不安〜〜ジャッコ〜〜プ ライバシー〜〜〜〜決心〜〜ティッ シュペーパーケースチョ コレート〜〜〜〜代わり〜〜看取る〜〜信 じられない〜〜祝福〜 

記号[☆:スタッフ・キャスト : 始めに :終わりに] web拍手 by FC2
(1980年代)(米)(TV映画)-The Impatient Patient-
演出…アラン・キング
制作…タウンゼント・フィルム・プロ ダクションズ(米)
脚本…ジョン・アントロバス
出演…E・G・マーシャル(チャーリー・ピット)
ストーリーテラー…ア ルフレッド・ヒッチコック
翻訳…鈴木導

病室のベッドの下で鼠のジャッコが貰ったパ ンを食べている。
そ のベッドで老人チャーリー・ピットが休んでいる。
イ ンターンを従えて回診している主治医の女医がチャーリーのことを、
女 医…「可能性がある限り 医師は最後まで希 望を捨ててはいけません
ところがこの部屋には その例外とも言える希望を持てない患者が一人い ます
名前はチャーリー・ピットと言って 末期癌の患者でもう手遅れで すが
生きる意欲をなくして いるの で 私にもどうしようもありません
医者とも患者とも殆ど 口を利かずに 人生に背を向けてほっといて欲しいと望むだけ
個人の意思を尊重して そっとして置くしかないでしょ」と インターンに説明し、向かいのベットのチェイスはチャーリーと正反対で最後まで諦めずに戦っていると話す。
寝 たふりをしていたチャーリーが、病室を出て行く女医に向かって、
チャー リー…「やっと 分かってくれたようだ な先生」と 独り言を言う。

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〜 不安〜

病棟のロビーで車椅子のチャーリーに、
老 婦人…「ああ ごめんなさいチャーリー
気が弱いから 手術の事を考えると不安なの
だって話を聞くと “大 変危険だ”って言うんですもの
新しい手術で成功すれば 新聞に載るかも知れないけど
もし失敗したら…
頭に穴を開けるんですって ここに
あ あ〜
こんなの嫌よ 怖いわ〜」と 泣きながら話す老婦人。
チャー リー…「やめちまえ」と 言うチャーリー。
老 婦人…「このままでほっておけば
“何時 脳溢血で倒れてもおかしくない”って言うけど
ああ〜 いいのよ
それなら それでもいいの
でも毎日しつこく言われると 断り続ける根気がなくなる」と 話す老婦人。
看 護師が近寄ってきて、話を聞いていたチャーリーに病室に戻るように言い車椅子を押して連れて行く。
老 婦人…「話を聞いてくれて ありがとう」と チャーリーに礼を言う老婦人。
看 護師に車椅子を押してもらって病室に戻る途中、ジャッコにやろうと配膳車に回収されたパンを一つ取るチャー リー。

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〜 ジャッコ〜

病室で静かに死期を迎えようとしているチャーリーの心の拠り所の鼠のジャッコが ベッドの下でパンを食べている。
チャー リー…「やあ 来たかジャッコ
遅かったな 捕まったかと思った
気をつけてくれよ
お前は煩く聞かないし  嘘もつかない
“諦めるな”とも言わ ない
ハイ わしは諦めた
ああ〜 静かに終わり を待つだけだ
悪足掻きはしない 誰 にも邪魔されずに


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャル

「死ねればいい
独りで
安らかにだ」
パ ンをジャッコにやりながら、話し掛け仰向けになって休もうとするチャーリー。
病 室の外から賑やかな歌声が聞こえてくる。
パ ンを美味しそうに食べていたジャッコが逃げてゆく。
病 室の入り口の方を見るチャーリー。
歌 を歌いながら病室に入って来るグレーサム夫人。
グ レーサム夫人…「本当に暗いわね」と 言い病室を見回す。
驚 いてグレーサム夫人を見るチャーリー。
グ レーサム夫人…「暗くて 陰気で
息が詰まりそう」と 声を上げる。
「ああ〜」“これね”と思って窓の方に行きブラインドを行き成り上げる。
窓 の近くのベッドに横になっているチェイスが驚く。
グ レーサム夫人…「ウ〜ン」
窓 を開けようと椅子に上がるグレーサム夫人。
「何年も 開けてない んじゃないの ウ〜ン」と 錆付いて開け難い窓を抉じ開けようとする。
「嫌な臭いがすると 思ったわ ああ
さあ これでいいわ」
窓 を開けるグレーサム夫人。
チェ イスが嫌そうな顔をして、
チェ イス…「頼むよ 閉めてくれ」と 言う。
グ レーサム夫人…「何を言ってるの 新鮮な空気ほど いいものはないのよ〜
病気なんて 吹っ飛ぶわ
私 グレーサム夫人
そして あなたはピリップ・チェイス」と ベットに掛けてある看護記録を見ながら言うグレーサム夫人。
チェ イス…「死にそうだよ 他はなんともな い」と 言うチェイス。
グ レーサム夫人…「アハハハ いいこと言うわ
そうよ その意気」と 大声で笑いながら言い、横になっているチェイスを無理やり起こすグレーサム夫人。
チェ イス…「あああ〜」と 呻き声を上げるチェイス。
グ レーサム夫人…「皆が笑えば 部屋中が明るくなる わ
私はボランティアで 今日からこの6号室の皆さんをお世話するの」と 嬉しそうに言い、枕を叩き手荒く世話するグレーサム夫人。
チェ イス…「あああ〜 あああ〜」
呻 き声を上げるチェイス。
嫌 そうな表情でグレーサム夫人を見ているチャーリー。
グ レーサム夫人…「あなたもそう 不自由してたで しょう」と チャーリーの隣で全身包帯で覆われ脚を牽引されている患者に言うグレーサム夫人。
チャー リー…「ああ〜」と 言いながら声を掛けられないように掛けシーツで顔を隠し背を向けるチャーリー。
グ レーサム夫人…「今日からは心配ないわ あたしが 一日24時間
週7日 お世話しますからね
一緒に楽しくやりましょう」と 言いながら、包帯で覆われている患者のサイドテーブルに置いてあるチョコレートを取り、チャーリーを見るグ レーサム夫人。
チェ イス…「もう いいだろ
この窓を閉めてくれ」と 頼むチェイス。
グ レーサム夫人…「駄目駄目 いい風が入ってくる じゃない
う〜ん 美味しい」
チョ コレートを食べながら、チャーリーの看護記録を見て、
グ レーサム夫人…「チャールズ・ピット あなたは何 と呼ぶ
チャーリー? チャックがいい?」と 言いながら掛けシーツを剥ぐグレーサム夫人。
手 で顔を隠して眠ったふりをするチャーリー。
グ レーサム夫人…「あら 駄目よ
眠っているふりしても 騙されないわ
起きるの おらしょっと」と 言いチャーリーを無理やり起こすグレーサム夫人。
チャー リー…「や やめろよ ほっといてく れ」
嫌 がるチャーリー。
グ レーサム夫人…「ちょっと待ってよ〜 ハイ どう ぞ」
枕 を叩き起こしてやるグレーサム夫人。
グ レーサム夫人…「さあ〜 そこにいるのは誰かしら
塞ぎ屋さんだったら 用はないわ
いて欲しいのは 楽しい人
暗い顔していると 皆が憂鬱でしょう」


『ただ一度の殺意』

「言われなくても分かるわね ウッフン」と チャーリーに言い、笑ったグレーサム夫人がベットの下を見る。
グ レーサム夫人…「ああっ 鼠!」
驚くグレーサム夫人。
チャー リー…「ああ! いや いや違う」
寝たふりをしていたチャーリーがジャッコが見付かったと思って慌てる。
グ レーサム夫人…「いい 汚くしとけば出るのよ
食べ物を零して ほっておくのは
鼠を呼ぶようなものよ 気をつけて〜
ああっ あい よしっと」
チャー リーを指差して言い、ベッドの下のパン粉を拭き取るグレーサム夫人。
グ レーサム夫人…「病気の療養に 必要なのは
温かい心の通い合いと 清潔な環境よ
あなたはどなた〜?」と 言いながら、他の患者に話し掛けるグレーサム夫人。
チャー リー…「気にするな ジャッコ
追っ払ってやるさ 今 日にもと ベッドの下を見ながら言うチャーリー。
グ レーサム夫人が病室を出て行く。
グ レーサム夫人を見ているチャーリー。

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〜プライバシー〜

事務室。
事 務長…「“あなたをチャックと呼んで 病室 を綺麗にし
窓を開けた”
いけませんか?」
要 望書を読んで、チャーリーに言う事務長。
チャー リー…「安らかに死にたいのに そっと しておいてくれんのです」と 訴えるチャーリー。
事 務長…「ピットさん この病院にはグレーサ ム夫人のようなボランティアは
欠かせません
集めていただいた寄付金で うちの経費の相当な部分を賄っていますか ら〜
“労力奉仕をやめろ”などと言うことは
そのう とても言えません」と 眼鏡を外し説得する事務長。
チャー リー…「それじゃ わしのプライバシー はどうなる」と 言うチャーリー。
眼 鏡を掛け書類を読んでるふりをして避ける事務長。

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〜 命〜

ロビー。
グ レーサム夫人…「何故 事務長に言いつけたの
悲しくなったわ 酷い人」と 言うグレーサム夫人。
チャー リー…「“命あるところ 悲しみあり だ”」と 言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「違うでしょ “希望”
そうよ
あたし それを忘れてたわ
“希望 けっして挫け るな”と 言うグレーサム夫人。
チャー リー…「…」
つ まらなそうに聞いているチャーリー。
グ レーサム夫人…「始めに ちょっと行違いがあった だけよ
今に“私がいなきゃ困る”って 言わせるわ
ウフン」と 言い、親しげにチャーリーに触れ立ち去るグレーサム夫人。
老 婦人…「しつっこさは 手術したがる医者と 同じね
また 言っちゃったわ
あたし 考えるのは手術のことだけ
怖くて どうしようもないの
だって あたし…」と 話し続ける老婦人。
チャー リーが車椅子を動かそうとする。
「ああ それじゃまた〜」と 言い足を退き、通りやすくする老婦人。

ジャッコにやろうと配膳車に回収されたパンを一つ取るチャーリー。
チャー リー…「ああ〜」
パ ンを膝掛けの下に隠し、嬉しそうな顔をするチャーリー。
グ レーサム夫人が目の前に現れ、
グ レーサム夫人…「チャック あなたに見せたいもの があるの」と 言い、ジャッコの死骸を尻尾をつまんでチャーリーに見せる。
チャー リー…「…」
驚くチャーリー。
グ レーサム夫人…「食べ物を零しておくと 鼠が出 るって言ったのに
聞きもしなかったわね〜 ほ うらこの通りと 見せ付けて言うグレーサム夫人。
チャー リー…「…」
悲しそうにジャッコを見ているチャーリー。
グ レーサム夫人…「認めなさい」


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャル

「私が必要なのよ」と得意 げに言い、ゴミ箱にジャッコを捨てる。
そして、チョコレートを口に入れて意気揚々と立ち去るグレーサム夫人。
車椅子に乗ったチャーリーが、ゴミ箱に近寄りジャッコを取り出す。
動かなくなったジャッコを悲しそうに見て、
チャー リー…「ジャッコ」と、話 し掛け頭を撫でてやるチャーリー。

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〜 決心〜

女医…「ピットさん  どうです聞こえますか」と 言う女医。
チャー リー…「…」
反 応を見せないでいるチャーリー。
女 医…「分かるでしょう 戦う意志をなくして
諦めてしまえば 死期は早まるのよ」
女 医が助手をしている医師に説明しながら出て行く。
ベッ ドの直ぐ横に置いたティッシュペーパーケースにジャッコを安置しているチャーリー。
ジャッ コに被せているティッシュの覆いを取って、
チャー リー…「うあ〜 可哀相なジャッコ


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャル

わしも決心したぞ
お前の言う通りだ “生 きるか死ぬかだ”
“決着をつけろ”とお前は言ったが わしは聞かなかった
“争いを起こさずに あいつを追い払えれば”と思ったんだ
わしが馬鹿だったよ
残された道は一つだ
しかし どうやる?
それは駄目だ ジャッコお前は思慮が浅いぞ
絞め殺すのはわけはないが その後どうなる
警官 尋問 そして裁判
何が目的か 忘れちゃ遺憾よ
“安らぎだ”と 言い、ティッシュペーパーケースのジャッコに覆いを被せる。

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〜ティッシュペーパーケース〜

歌を歌いながら病室に入って来るグレーサム夫人。
グレーサム夫人「素敵な朝よ 窓を開ければ〜
うっ あ〜」と 言い、窓際に置いてる椅子に乗って窓を抉じ開けるグレーサム夫人。
チェ イス…「あっ ああ〜」
窓 を開けられ慌てて掛けシーツを首元まで上げるチェイス。
グ レーサム夫人…「具合よさそうね よかった」と チェイスに言いシーツを整えてやる。
「あなたはど〜う 昨日より顔色がよくなったみたい」と 包帯で覆われている患者に声を掛け、
「こっちの塞ぎ屋さん 調子どう」
チャー リーの所に来て言う。
チャー リー…「悪くなる一方だ」と 言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「あら ずっと元気だ出たみたいよ
これ なあに?」と 言い、ティッシュペーパーケースを手に取るグレーサム夫人。
チャー リー…「やめろ!」
慌ててケースを奪い取るチャーリー。
グ レーサム夫人…「あ 捨てるところなの」と 言うグレーサム夫人。
チャー リー…「とんでもない」と 言い、ケースを掛けシーツの下に仕舞うチャーリー。
グ レーサム夫人…「それならいいの だらしがないか ら
いらない物なら 捨ててあげようと思っただけ」と 言い、
「うううん ちゃんと閉まっといて チョコに弱いのよ
包 帯で覆われている患者のサイドテーブルに置いてあるチョコレートを口に入れ、
「あああ〜 あああ〜 ああ〜」
歌 いながら出て行くグレーサム夫人。
それを見て考えを巡らせるチャーリー。

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〜チョコレート〜

チャーリーが夜中に調剤室に忍び込み、毒薬を注射器に取り出す。
それを、包帯で覆われている患者のサイドテーブルに置いてあるチョコレートに注入 する。

グレーサム夫人がチョコレートを手に取るのをじっと見ているチャーリー。
そ れに気が付いたグレーサム夫人が、
グ レーサム夫人…「自分の物でもないのに 食べられ るのが惜しいの」と 言い、チョコレートをケースに戻す。
チャー リー…「そうじゃないさ」
チャー リーを睨むグレーサム夫人。
チャー リー…「偏屈な年寄りで すまんと思っ てる
本当によくしてくれるのに 礼の言葉も言えないが
こんな性格だと 諦めてくれ
幾つでも どうぞ」と 言い、グレーサム夫人の手を取りキスをしてチョコレートが置いてある方に押し笑ってみせるチャーリー。
手 を口に持って行き、困惑して見ていたグレーサム夫人が、
グ レーサム夫人…「ああ チャック
その気持ちだけで 十分だわ」と 嬉しそうに言うグレーサム夫人。
チャー リー…「ああ いや いやあ そう言わ ずに一つどうぞ」と 笑顔を作って言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「それじゃ 頂こうかしら」と にこやかに言いチョコレートを手に取るグレーサム夫人。
“上手くいった”と思いながら見ているチャーリー。
口 に入れようとして、
グ レーサム夫人…「やめた あなたをお手本にする わ」と 言うグレーサム夫人。
チャー リー…「何が?」と 言い、グレーサム夫人がチョコレートをケースに戻すのを見ているチャーリー。
グ レーサム夫人…「過ちを認めるのと同じに ダイ エットがあたしには辛〜いの
やるわ 今 この場から」と チャーリーを指差しながら言うグレーサム夫人。
チャー リー…「ああっ 最後に一つ食べたら」
何 としても食べさせようと勧めるチャーリー。
グ レーサム夫人…「もう チョコレートは欲しくない わ
そう言ってくれるだけで 嬉しいの」と ニコニコして言うグレーサム夫人。
チャー リー…「仲直りのしるしに一つだけ  ヘッヘヘヘ」と 顔を顰めて言い、苦笑いするチャーリー。
グ レーサム夫人…「ハッハハハ」
笑 いながらチョコレートを手に取るグレーサム夫人。
愛 想笑いをするチャーリー。
グ レーサム夫人…「駄目 フフフ」と 言い、包帯で覆われている患者の口の中に、
グ レーサム夫人…「はい」と チョコレートを入れ立ち去るグレーサム夫人。
包 帯で覆われている患者…「ア〜アアア〜  エッへへッ」
息 が為難くなり喘ぐ患者。
驚 いたチャーリーが慌ててベッドから飛び出し、患者の口の中のチョコレートを取り出す。
包 帯で覆われている患者…「ウエッ オッ」
咽 る患者。
チョ コレートを戻しケースごと捨て、恨めしそうにグレーサム夫人が出て行ったドアの方を見るチャーリー。
グ レーサム夫人…「アッハハハ 忘れるとこ
アッハハハ」
笑 いながら病室に戻って来たグレーサム夫人が、走って窓を開けに行く。
グ レーサム夫人…「あっ」
ブ ラインドを上げ窓を開けようとするグレーサム夫人。
掛 けシーツを被るチェイス。
グ レーサム夫人…「あ〜 ふう」
“ギ〜”やっと窓を開けるグレーサム夫人。
そ れを見ているチャーリー。
グ レーサム夫人…「う〜
フ〜フフフ〜ン」
嬉 しそうに歌いながら出て行くグレーサム夫人。
次なる手が浮かぶチャーリー。

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〜 窓〜

“ドン ドン ギ〜 ギ〜 ギ〜”“ギ〜 ギ〜 ギ〜”
夜中に窓を抉じ開け、オイルを塗り細工するチャーリー。
チャー リー…「あっ」
危 うく落ちそうになったチャーリーが、
チャー リー…「ああ 今度こそやるぞジャッコ
見てろよ
“押した 開いた ド スンと落ちた”だ」と 言いニンマリする。

グレーサム夫人が入って来る。
グ レーサム夫人…「アハ お早う皆さん
今日も 清々しい気持ちのいい朝ですよ〜
ウフフフ」
笑 いながら窓を開けに行くグレーサム夫人を見てニヤリとするチャーリー。
グ レーサム夫人…「ああっ」
気 持ちよさそうにブラインドを上げるグレーサム夫人。
“コロン”
包 帯で覆われている患者のギブスがコップに触れ落す。
物 音に振り向いて、
グ レーサム夫人…「ああっ いいのよ気にすることな いわ〜
ああっ」と 言い、ベットの下のコップを拾ってやる。   
ニ タリとしていたチャーリーがガッカリする。
チャー リーを見て、
グ レーサム夫人…「チャック 窓を開けてくれない」と 言う。
慌 てて、
チャー リー…「よしてくれ わしは病人だ」と 言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「元気そうで そうは見えないわ」と 腕組みして言うグレーサム夫人。
チャー リー…「いやいや 窓を開けたがってる のはあんただろ
自分で開け給え」と 言うチャーリー。
二 人の押問答を顔を顰めて聞いているチェイス。
グ レーサム夫人…「今日は どうしたって言うの」と 言うグレーサム夫人。
チャー リー…「どうもしちゃおらん わしは開 けんぞ」と 言うチャーリー。
チェ イス…「いい 私がやる」と 言い、窓を開けようと起き上がって行くチェイス。
チャー リー…「いや いや やめろ」
慌 てて起き上がって窓の方に行くチャーリー。
グ レーサム夫人…「やらせなさいな〜」と 言うグレーサム夫人。
椅 子に上がって窓を開けようと押すチェイス。
チェ イス…「ああ〜」
思 いがけず簡単に開いたために、前のめりになり落ちそうになるチェイス。
チャー リー…「お〜い “やめろ”と言うん だ」
必 死にチェイスを掴むチャーリー。
チェ イス…「あっ あ〜〜〜」
前 のめりになった姿勢で真下を見て怯えるチェイス。
チェ イスを掴んだまま、ホッとしているチャーリー。


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャルら

グレーサ ム夫人…「直してくれたようね 意外に気が 利くじゃな〜い」と 言いチャーリーを見るグレーサム夫人。
チェ イスを引き起こしてやるチャーリー。
チェ イス…「あ〜 あっ」
胸 を押さえながらベッドに戻るチェイス。

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〜 代わり〜

ロビー。
チャー リー…「お前が言ったとおりだ 首を絞 める他ないが
わしにはその力はない あの女 不死身だとしか思えんよ」
チャー リーがティッシュペーパーケースを抱きかかえ、中のジャッコに向かって話す。
老 婦人が近づいて来る。
慌 ててティッシュをジャッコに被せて隠すチャーリー。
老 婦人…「捜してたのよ チャーリー
“寝てろ”って言われたんだけど」と チャーリーの耳元で話し、チャーリーの前のソファーに座る。
「明日の朝の手術のためだって 髪を切られたの
あたし 怖い
誰か他の人に 代わって欲しいわ」と 言う老婦人。
チャー リー…「他の人に」と 言うチャーリー。
老 婦人…「代りに手術を受けてくれないかしら  ああ
何言っても 聞いてくれないの」と 泣き出しそうな声で言う老婦人。
チャー リー…「分かっちゃくれんよ」と 悲観して言うチャーリー。
老 婦人…「ええ
皆が “わがまま言うな”って言うの
娘も先生も “医学の歴史に残る活気的な手術を
何故嫌がるのか”って」


『ただ一度の殺意』

「兎に角 お別れを言いたかったの
分からないけど 万一ってこともあるし」と 言う老婦人。
神 妙に聞いているチャーリー。
老 婦人…「あなたと 話が出来てよかった
何も言わないけど 心 配してくれてることはよ〜く分かるわ
ほんとよ ありがとう」と 涙を流して礼を言い立ち去る老婦人。
チャー リー…「他の者と 代わりたいか」と 口ずさみニヤリとするチャーリー。

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〜 看取る〜

病室。
チャー リー…「多分 真夜中になるだろう」と ベッドに横になっているチャーリーがグレーサム夫人に言う。
グ レーサム夫人…「何の話?」
身 を乗り出して聞くグレーサム夫人。
チャー リー…「死ぬ時だ わしにははっきりと 分かる」
具 合が悪そうな表情をして言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「あ 何を言うのよ〜」と 首を横に振って言うグレーサム夫人。
チャー リー…「奥さん わしらは意見が合わな いことがあったが
これが最後だ」と 弱々しく言うチャーリー。
驚 いてチャーリーを見ているグレーサム夫人。
チャー リー…「えっ 頼むみを聞いてくれ
傍にいて 看取ってくれないか」
苦 しそうに言うチャーリー。
グ レーサム夫人…「そうして欲しいって言うんなら  後で戻ってくるわ」と にっこりして言うグレーサム夫人。
チャー リー…「頼むよ 待っている
是非 もう一度来てくれ」と 頼むチャーリー。
グ レーサム夫人…「うん」と 頷き、歌いながら出て行くグレーサム夫人。
グ レーサム夫人を見ていたチャーリーが起き上がって、リネン室に忍び込みクロロホルムを布に染み込ませる。
グ レーサム夫人かと思って飛び掛ろうとするが、違い慌てて身を引くチャーリー。
グ レーサム夫人が通るのを待っているチャーリー。
ク ロロホルムの臭いに嫌な顔をして手で払うチャーリー。
グ レーサム夫人が歌いながらリネン室の方に近づいて来るのが聞こえる。
リ ネン室の前を通るグレーサム夫人に飛び掛り、クロロホルムを染み込ませた布を夫人の後ろから口元に当てる チャーリー。
グレーサム夫人…
「ああっ!」

苦 しくて暴れるグレーサム夫人。
チャー リー…「うおっ!」
グ レーサム夫人の口元に当てた布を押さえつけ、必死に抱え込むチャーリー。
グ レーサム夫人…「あうっ」
苦 しそうにしているグレーサム夫人が気を失って行く。
チャー リー…「まだ ダイエットが足りない な」と 言い、気を失ったグレーサム夫人を抱きかかえ、老婦人の病室へ四苦八苦して連れて行くチャーリー。


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャルら

老婦人が寝ている隣のベットにグレーサム夫人を寝せ、老婦人の看護記録をそのベットに 掛けて出て行くチャーリー。
自 分の病室のドアで身を隠すチャーリー。
看 護師たちがストレッチャーを老婦人の病室に運ぶ。
成 行きを心配して見ているチャーリー。
看 護師たちが老婦人の病室から出てくる。
ストレッチャーに乗せられているのはグレーサム夫人だ。
髪を切られたグレーサム夫人が、看護師たちに手術室に運ばれようとしてチャーリー の病室の前を通り過ぎる。


『ただ一度の殺意』

ドアを開け、
チャー リー…「さようなら グレーサムさん」と 手術室に運ばれているグレーサム夫人に向かって、嬉しそうに投げキッスをする。


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャル

そして、病室の中を小躍りしながら自分のベッドまで行き飛び乗る。
チャー リー…「ああ〜」と 気持ちよさそうにベッドで休むチャーリー。

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〜信じられない〜

回診している女医がチャーリーの検査結果を見て、
女 医…信じられないわ 今日は何て いう日なの
最初がグレーサム夫人に起きた あの痛ましい間違い」と 言う女医。
チャー リー…「…」
上 目遣いで女医の反応を見ているチャーリー。
女 医…「あんなこと起きるはずないのに 何故 なの」
チャー リー…「…」
視 線を逸らすチャーリー。
女 医…あの手術が危険だと 分かったから
あの人の尊い犠牲も 無駄にはならないけど
そして今度は
あなたと 言ってチャーリーを見る女医。
チャー リー…「わしがどうした?」と 検査結果を見ながら言うチャーリー。
女 医…「治ってるの」と 言う女医。
チャー リー…「何が?」と 言うチャーリー。
女 医…「昨日の検査の結果を見ると 体中に転移してた癌が消えてるの
跡形もなくと 言う女医。
チャー リー…「治ったのか」と 言うチャーリー。
女 医…「ほんの4・5日前とは 見違えるほど よ
今日か 明日かと思っ たのに
完治したの
こんな話 聞いたこと もないわと 言う女医。
チャー リー…「言ってみれば
それもグレーサム夫人 の お蔭かも知れないと 天を仰いで言い、
チャー リー…「一度は失くした生きる張り合い を 与えてくれたんだ」と 神妙に言い、笑うチャーリー。

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〜 祝福〜

退院することになったチャーリーが病院を出て来る。
老 婦人…「チャーリー
ねぇ チャーリー」と 張りのある声で老婦人が呼ぶ。
驚 いて声がするタクシーの中を覗き込みドアを開けるチャーリー。
老 婦人…「ああ」と タクシーに乗ってくるチャーリーを見て喜ぶ老婦人。
ド アを閉め嬉しそうに老婦人を見るチャーリー。


『ただ一度の殺意』E・G・マーシャルら

老婦人…「退院して来 たの」と 聞く老婦人。
チャー リー…「治ったそうだ」と 満面に笑みを浮かべて言うチャーリー。
老 婦人…「まあ! よかったじゃない
それはおめでとう」と 大喜びし、
「あたしも同じ
手術をやめることに なったから 家に帰ってもいいってと 言う老婦人。
チャー リー…「手術をしなくてよかったよ  やってりゃ死んでたとこだ」と 言うチャーリー。
老 婦人…「ええ あたし考えたの
クヨクヨしても仕様がないから これからは楽しくやろって」と 活き活きと言う老婦人。
チャー リー…「ハッハハハ 短い命だ
ヘッヘヘヘ」
嬉しそうに笑いながら頷くチャーリー。
老 婦人…「ほんと」と 言い、
老 婦人…「ねぇ チャーリー
あたし 老人会に入ってて
月に何度か旅行やダンスをしてるんだけど 今夜お食事会をするの
嫌じゃなかったら一緒にどう」と 誘う老婦人。
チャー リー…「ああ 喜んで行くよ」と 嬉しそうに言うチャーリー。
老 婦人…「わあ」
喜ぶ老婦人。
チャー リー…「その前に 友達のためにするこ とがあるが」と 抱いているティッシュペーパーケースに触れ、優しく見て言うチャーリー。
そ の箱を見る老婦人。
二人を乗せたタクシーが、二人のこれからの行路を祝福するかのようにスムーズに走 らせて行く。


『ただ一度の殺意』

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 末期癌で数日の命と言われていたチャーリーに生気 が蘇った。
  押し付けがましい世話で安らぎを乱され、心の拠り所まで奪われたからだ。
  手厚い介護で駄目な時は、刺激するのも効果ありってことか。
 生 きる意欲をなくしたチャーリーの特効薬となったのが、グレーサム夫人だったとは…
 気 力がいかに大切かってことだろう。

 また、患者の取り違いや、医者の実験台にされそうだったなど、怖いものだ。
 病院選びは慎重にしなくては老婦人のような“俎板の鯉”にされる かも。

 ※クロロホルム(chloroform):分子式CHCl3 エチルアルコールに水とさらし粉とをまぜ蒸留して得られる無色揮発性 の液体。窒息性の臭気をもち、麻酔作用がある。発癌性が指摘されている。冷媒、弗素樹脂原料に用いる。トリクロ ロメタン。

更新2007.11.21
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ヒッチコックがデザインしたという似顔絵

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新・ ヒッチコック劇場
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