泥の河
  
   柴田真生子、朝原靖貴、桜井稔

※ストーリーの結末を載せていますので、映画をご覧になっていない方は、ご了承下さい。

 

記号[☆:スタッフ・キャスト : 始めに] web拍手 by FC2
(1981)(S56)(白黒)(キ ネマ旬報ベストテン第1位)(日本映画ペンクラブ第1位)(毎 日映画コンクール最優秀作品賞)(ブルーリボン最優秀作品賞)(日 本アカデミー賞最優秀作品賞)(文化庁優秀映画賞)(モスクワ映画祭銀賞)-Muddy River-
監督…小栗康平(キ ネマ旬報日本映画監督賞)(毎日映画コンクール最優秀監督賞)(日 本映画監督 協会新人奨励賞)(芸術選奨文部大臣新人賞)
製作…木村元保
原作…宮本輝(第13回太宰治賞を受賞 した宮本輝の同名小説を映画化)
脚本…重森孝子
出演…田村高廣(板倉晋平)(毎 日映画コンクール主演男優賞)
………藤田弓子(板倉貞子)
………朝原靖貴(のぶちゃん/板倉信雄)
………加賀まりこ(松本笙子)(キ ネマ旬報助演女優賞)
………柴田真生子(松本銀子)
………桜井稔(きっちゃん/松本喜一)
………殿山泰司(屋形舟の男)
………芦屋雁之助(荷車の男)

Top

 この作品は、秀作だ。
  感動した。

 特に、このシーンは堪らなかった。
 少年きっちゃんがここは御国を何百里 離れて遠き満 州の赤い夕日に照らされて友は野末の石の下……」♪戦友を歌う。
 その歌声は、胸が締付 けられるような衝撃だった
  その少年が背負っている現実の世界を突き付けら れているようで切なく、涙が込み上げ嗚 咽し、泣いてしまった。

 以前、黒澤明監督の『生きる』で、志村喬が♪ゴンドラの唱を 雪が降り注ぐ中でブランコに乗って、口ずさんでいたシーンがありグッときて泣いたことが あった。
 この涙はむしろ、「社会的に 意味のある仕事を最後に成し遂げられてよかったね」という安堵・安らぎの感情から来るものだった

 しかし、小栗康平監督の『泥の河』は、切ない。
 戦争体験者の亡父が口ずさんでいた歌が、歌詞の意味も分からないであろう9 才のきっちゃんの愛唱歌(?)に なっているのだ
  小栗監督は、屈辱感にうち負かされまいと戦って いるきっちゃんもまた戦争真っ只中にいるということを、ここで訴えたかったのだと思う。

 大阪安治川河口が舞台で、河の近くで食堂を営む晋平の息子(のぶ ちゃん)と、廓舟(売春宿)の笙子の娘(銀子)、息子(きっ ちゃん)との出会いと別れが描かれている。

 間がいい作品で、子役を含む俳優がそれぞれの魅力を出している。

 田村高廣の眼差し、藤田弓子の自然な表情、娼婦役の加賀まりこの美しさ。
  それに、のぶちゃん・笙子・きっちゃんを演じた子役の細やかな表情。
  そして、名優、芦屋雁之助と殿山泰司の味わいのある演技がいい。
  小栗監督の演出は細やかだ。

 戦友を歌うきっちゃんのシーンや、のぶちゃんが舟を追いかけるラストシーン、壁 越しの声のシーンなど効果的な演出だ。

 そして、このシーンも素晴らしい。
 きっちゃんが、「今、おもろいことしてやるわ」といって、カニをアルコール漬しにして火を点けるシーンがある。


『泥の 河』朝原靖貴、桜井稔

 堪らない。
 “じっ と”見ている きっちゃんの瞳が怒っている。
 境遇への怒りを、こ のような演出で見せた小栗監督は上手い。

 邦画の子役で思い出すのが、小 津監督『生 まれてはみたけれど』だ。
  この子役も上手かった。
  この作品は、フイルムを子供たちが観ているシーンで大津波が押し寄せてくるような衝撃を受け嗚咽して泣 いてしまったが、『泥の河』は、じわじわと波が打ち寄せてくるように涙が流れ、最後は 溺れそうなほどに涙が溢れ出た。
  どちらも、名作ここにありだ。

Top

『泥 の河』名優田村高廣さんを偲んで〜 シネマトーク

Top

参考文献
邦画
サ イトマップ
映 画ありき2
映画あり き

〜クラシック映画に魅 せられて〜

inserted by FC2 system