NEWSトーク(フィギュアスケート)
私 が日々感じていることを書き綴っています
'88カルガリー冬季オリンピックフィギュアスケート
<1988 年カルガリー冬季オリンピックフィギュアスケート-1988 Calgary Olympics->

思い出の'88カルガリー大会

◆錚々たる選手たちが出揃った'88 カルガリー冬季オリンピックフィギュアスケー ト。

　'88 カルガリー大会にはレベルが高い個性的な選手が揃っていた。
　 まず、ペアで金メダルを取ったエカテリーナ・ゴルデーワ(16才)＆セルゲイ・グリンコフ(21才)組(旧ソビエト)(オ リンピック1988金・94金、世 界選手権 1986金・87金・88銀・89金・90金、世 界ジュニア選手権85金)だ。

　16才のゴルデーワと21才のグリンコフはフレッシュ で注目を浴び、前評判通りにスピードのある滑り、高いリフト、それに息の合ったジャンプをし高い技術で他を 圧倒した。

　キュートなゴルデーワを紳士的にリードするグリンコフの高い技術によるものが大き く、カ ルガリーオリンピック後も完璧な技術と華麗な演技で魅了し続けた。
　'90 世界選 手権で金メダルを取った後に国内事情などで惜しまれつつプロに転向する。
　 1991年4月に二人は結婚し、プロの選手も申請すれば、もう一度アマチュアの世界に戻ることが出来るアマ チュア規程で'94 リレハンメル冬季オリンピックに復帰し他を圧倒して見事に2度目の金メダルを取 る。
　 プロになった選手がアマチュアの大会で金メダルを取ることは難しいとされる中であった。
　 若い二人の息のあった滑りは芸術的で、ペアの手本とされ世界フィギュアスケート殿堂入りするが、1995 年、グリンコフが練習中に突然倒れ心臓発作で亡くなってしまった。
　 残念でならない。
　 リフトしていたゴルデーワを降ろした後に倒れたと聞き、優しくリードするグリンコフらしいと胸を打たれた。
　 ゴルデーワはセルゲイとの子ダリアを育てながら1996年シングルとして再起を果たす。
　 1997年に出版した「愛しのセルゲイ」が話題になる。
　 ゴルデーワを励まし続けた仲間たちが取り持ったイリヤ・クーリック(ロシア)(1998 長野オリンピック金メダリスト)と2002年に再婚。 クーリックとの子エリザヴェータがいるという。

　男子シングルはブライアン対決と言われた金メダルのボイタノ(ア メリカ)(オ リンピック1988金、世 界選手権1985銅・86金・87銀・88金)と、

銀メダルのオーサー(カナダ)(オ リンピック1984銀・88銀、世 界選手権1983銅・84銀・85銀・86銀・87金・88銀)(1985 年カナダ勲章授章（1988年にはオフィサーに昇進）)(現 在、金妍兒(キム・ヨナ)コーチ)、

それにアレクサンドル・フェデエフ(旧ソビエト)(世 界選手権1984銅・85金・86銅・87銅)、

銅メダルのビクトール・ペトレンコ(旧ソビエト)(18 才)(オ リンピック1988銅・92金、世 界選手権1988銅・90銀・91銀・92金)だ。

　三人の世界チャンピョン(フェデエフ、ボイタノ、オーサー)が対決ということでも話題になった。
　 地元開催であるオーサーはジャンプに定評があり前大会のサ ラエボで銀メダル、前 年の世界選手権では金メダルを取っていることから注目を浴び入場行進では旗手を勤めていたほど だ。
　 だが、オーサーはコンパルソリー(現在は廃止)3位、 SP1位、フリー2位で、コンパルソリー2位、SP2位、フリー1位のボイタノに僅かの差で敗れ銀メダルに なった。
　 ボイタノはシーズンの最終の世 界選手権(ハ ンガリー/ブダペスト)でも金メダルを取る。
　 ブライアン対決と言われた二人は世界選手権後プロに転向するが、ボイタノは金メダルを取ったことによる自信 が技術に益々磨きを掛けて、プロの大会でも優勝し続けた。
　 オーサーはプロに転向してもボイタノに負け続けた。
　 僅かの差の金と銀は大きな差になっていった。
　 オーサーは現在、金妍兒(キム・ヨナ)のコーチをしてい る。
　 自身が取れなかったオリンピックの金メダルを金妍兒にとの思いがあるのかも知れない。
　 それはともあれオーサーの姿を画面を通して見られることは嬉しいことだ。

　もう一人の世界チャンピョンのフェデエフは、しなやかな滑りをするのが印象的なよう にコンパルソリーで1位だったが、SPでジャンプをミスし9位になってしまった。SPの失敗が響きフリーで も4位と振るわず、同国のペトレンコにも逆転され4位になった。
　 ペトレンコはコンパルソリー6位、SP3位、フリー3位と順位を上げ銅メダルを獲得する。
　 ペトレンコは銅メダルを取り喜びながらも、尊敬するフェデエフに敬意を表したコメントをしていた。
　 誠実なペトレンコらしいと思ったものだ。

　ペトレンコは1992 年アルベールビルオリンピックと同 年の世 界フィギュアスケート選手権で金メダルを取りプロに転向する。
　 1993年のアマチュア規程をうけ、1994 年にオリンピックに出場する。
　 が、SPで直前の選手のスケート靴のネジが外れて飛び散るというアクシデントがあり、集中できずにSPで ジャンプを失敗し、それが響き結局4位であった。
　 また、ペトレンコは両親を失った同郷のオクサナ・バイウルの経済援助をしていたことも話題になった。そのバ イウルが'94 リレハンメルオリンピックで金メダルを取ったときに、エキシビションでペトレンコと一緒に 滑っ ていたのは感動的であった。
　 現在は国際スケート連盟公認の技術審判員として活動している。 

　プロの大会で勝ち続けていたボイタノはプロになった選手が一度だけオリンピックへ復 帰できるようにできないかと先頭に立ち、ヴィッ トたちと活動した。
　 願いが叶い1992年にアマチュア規程が改定され、'94 リレハンメルオリンピックに出場するが6位であった。

　アイスダンスは金メダルのナタリア・ベステミアノワ＆アンドレイ・ブキン組(旧 ソビエト)(オ リンピック1984銀・88金、世 界選手権82銀・83銀・84銀・85金・86金・87金・88金、世 界ジュニア選手権81金)、

銀メダルのマリナ・クリモア＆セルゲイ・ポノマレンコ組(旧 ソビエト)(オ リンピック1984銅・88銀・92金、世 界選手権1985銀・86銀・87銀・88銀・89金・90金・91銀・92金)たちだ。

　ベステミアノワ＆ブキンは舞台劇を観ているような大きな表現力で圧倒 し金メダルを取った。個人的にはビートルズナンバーを軽やかに滑ったクリモア＆ポノマレンコが 好きだったが、あのベステミアノワ＆ブキンの王様と女王様のような演技を見せられたら仕様が ないといったところだった。

　クリモア＆ポノマレンコはベステミアノワ＆ブキンがア マチュアから去った後の'92 アルベールビルオリンピックで金メダルを取り、同 年の世界選手権で3度目の金メダルを獲得し プロに転向した。
　 カ ルガリーの エキシビションの♪ラ・クンパルチータや、

　ア ルベールビルオリンピックのフリーの♪G線上のアリアは特に美し い滑りだった。

　クリモア＆ポノマレンコはピタリと決まるターンの美しさ、エッ ジの深さ、それに滑らかな滑りに、優雅な佇まいと、どれをとっても、これぞダンスとうっとりとさせた。
　 美しく表情豊かなクリモアとスマートなリードが素敵なポノマレンコは夫婦だったこともあるだろうが、息の 合った魅力的なカップルだった。
　 二人の舞は大好きで毎回楽しみにして観ていたものだ。

　そして、最も話題になったのがカルメン対決といわれた女子シングルのカ タリナ・ヴィット-Katarin Witt-(東ド イツ)(22才)(カタリナ・ビット、カタ リーナ・ビットの表記も)(オ リンピック1984金・88金、世 界選手権1982銀・84金・85金・86銀・87金・88金) (冬季オリンピック'女子フィギュアスケートで2大会連続金メダルを獲得したのは52年ぶりの快挙('28・'32・'36の ノルウェーのソニア・ヘニー以来))

とデヴィ・トーマス(アメリカ)(20才)(オ リンピック1988銅、世 界選手権1986金・87銀・88銅)のメダル争いだ。

　ヴィッ トは前大会のサ ラエボで優れたジャンプを跳び、溌剌とした滑り、それに指の先まで神経を行き届けてさせた優雅 な演技で金メダルを取って以来、世界選手権などでも勝ち続けて銀盤の女王といわれていた。
　 そのヴィットが一度だけ敗れたのがトーマスであった。 
　 その二人がフリーに同じ♪カルメンを使うということで話題になったのだ。 
　 当時、ヴィットは、その美貌とスタイル、それにチャーミングな魅力で人気者であったことと、社会情勢が混沌 としている中で開催されたカ ルガリー大会(カ ナダ)で社会主義国の威信を掛けられた東ドイツのヴィットの一挙 手一投足はマスコミに取り上げられ続けていたことも拍車を掛けていた。 
　 対するトーマスはアメリカだったこともあり盛り上がっていた。 
　 コンパルソリーでトップだったソビエトのキラ・イワノワがSPでジャンプに失敗して4位に落ち、コンパルソ リー2位のトーマスがSPで2位だったが1位に上がってきて、コンパルソリー3位だったヴィットがSPで1 位となり、SPを終わった時点で小数点以下の僅かの差でトーマスを追う展開となった。 
　 僅かにトーマスがリードしてのフリーは最終グループの第3滑走のヴィットが先に滑った。
　 ヴィットは、トリプル・ジャンプはサルコウとトウ・ループだけにしぼり、5つ目のトリプル・ジャンプ、ルー プをダブルにするという無理をしない構成にして演技に集中できるようにした。成熟した演技で観客を魅了した ヴィットは芸術点で1位を取りフリー2位の成績で最終滑走のトーマスを待った。 
　 最終滑走となったトーマスは緊張で本来の滑りが出来ずにジャンプで3度ミスするなどしてフリーで4位にな り、トリプル・ルッツ、ループ、サルコウ、トウ・ループを組み入れてフリー1位になったエリザベス・マン リー(カナダ)にも抜かされ銅メダルになってしまっ た。 

　トーマスがフリーで失敗したのを「ヴィットがトーマスを睨んで圧力を掛けたため」とアメリカのマスコミが書き立てたと後で聞き残念に思ったもの だ。 
　 勝負の世界では同国であっても試合前には目を合わせないというようなことがあるのに、誹謗中傷するとは嘆か わしいと思った。
　 どちらも素晴らしい個性を持っている選手の対決だっただけに水を指された気分だった。

　ヴィッ トとトーマス、それにマンリーも、そのシーズンの最終の世 界選手権(ハ ンガリー/ブダペスト)でアマチュアから引退した。 
　 トーマスはプロになりアイスショーなどに参加しながら、予てから目標にしていた医師になるためにスタン フォード大学などで学び現在は医師として活動しているという。

　マンリー(1988カナダ勲章受章)は、 プロになりアイスショーなどに参加しつつコーチ兼コメンテーターとして活躍している。

　トリプルジャンプで話題を集めた伊藤みどりは、規定10位、SP4位、フリー3位、 総合5位であった。

　このカ ルガリー大会はエキシビションも華やかだった。
　 ヴィットが踊った個性的な♪BADは、マイケル・ジャクソンが歌い踊るプロモーションビデオ を何度も見ていた私も素直に受けいれ嬉しくなった。それに、ペトレンコの品のいい♪ア ヴェ・マリアや、オーサーの情感込めた♪ストリー・オヴ・マイ・ライフ。
　ク リモア＆ポノマレンコの洒落た♪ラ・クンパルチータや、ベステミアノワ＆ ブキンのダイナミックなダンスに、トーマスの思いを込めたバラード、スプレッド イーグルが素晴らしいボイタノといった面々を楽しめた。
　
　'88 カルガ リーオリンピックでも金メダルを取り連覇したヴィットは、世 界選手権(ハ ンガリー/ブダペスト)でも4度目の優勝をし、有終の美で飾りア マチュアの世界から惜しまれながら去っていった。
　氷 上のグレース・ケリーと言われるほど、美しくて、スタイルがよく、セクシーで、チャーミングなヴィット はカリスマ的な存在であり、彼女の滑りを一度観た人は虜になってしまうと言われるように、カ ルガリー大会のフリーで滑った悲劇的なストーリーの♪カルメンは伝説になった。

　だが、女子フィギュアスケートは美しい滑りなどの魅せる芸術よりも高度のジャンプな どの技術重視へと急速に変わっていった。 
　ヴィットは4月25日に 東ドイツのホーネッカー国家評議会議長に祖国功労大勲章を贈られ、「ホリディ・オン・アイス」のアイス ショーに11月2日から翌年4月4日までの期間だけ、やっと承認され東ドイツ選手として初のプロとなった。(37 万2千マルクのギャラは2割だけで、後はDTSB(ドイツ体操スポーツ連合)が 受け取ったったそうだ) 
　 当時、社会主義体制だった東ドイツから自由の国アメリカへ行くことは危険だったそうだが、ヴィットの希望が 叶えられアメリカでアイスショーに出演することになった。 
　 1989年3月世界選手権（パリ）の会場で銀盤の女王とし て一時代をつくってフィギュアスケートを広めた功績で、国際スケート連盟から大変名誉あるジャック・ハバー ル賞(4人目)を贈られた。
　 11月9日、ソビエト連邦のペレストロイカに端を発した東ドイツの民主化運動(東欧革命)をきっかけにベルリンの壁が崩壊する。 
　 1990年に『氷上のカルメン』(Carmen on Ice)でエミー賞を受賞する。
　 10月3日、ドイツが再統一を達成し、再びベルリンを首都と定めた。 
　 ヴィットがアメリカへ渡ってから2年後に祖国ドイツは統一された。 
　 この頃から、統一ドイツの代表として、再びオリンピックに出たいという思いが芽生えていたとい う。 
　 女子フィギュアスケートが魅せる芸術よりも技術重視へと急速に変わっていった流れを心配したヴィットは、元 金メダリストのブライアン・ボイタノたちとプロになった選手が一度だけオリンピックへ復帰できるようにでき ないかと活動し、アマチュア規程が1992年に改定される。プロの選手も申請すれば、一度だけアマチュアの 世界に戻ることが出来ることになる。 
　 1993年4月よりオリンピックを目指し1994年に国内オリンピック代表2枠に入る。
　リ レハンメル(ノ ル ウェー)オリンピックに2大会ぶりに出場し7位となる。
　 '94リレハンメル冬季オリンピックに28才になったカタリナ・ヴィットが戻ってきて反戦歌♪ 花はどこへ行った(Sag mir wo die Blumen sind)をフリーで滑った。
　 感動的な滑りは思 い出のカタリナ・ヴィットに載せているが素晴らしかった。

　その後もヴィットはアイスショーでプロデュース兼スケーターとして、私たちを楽しま せてくれていたが、2008年のツアーをもって自身のスケーター人生に幕を引くことを発表した。

　フィギュアスケートを大好きな私はこれからも見続けるだろうが、’88 カルガリーオリンピック大会で競い合った錚々たる選手たちは何時までも忘れられないであろう。

主な成績(オリンピック・世界選手権・世界ジュニア選手権)
 

　※'88カルガリー大会は1万9000席の収容人員のサドルドーム、カルガリー大学 構内のファーザー･デービッド･バウアー・オリンピック・アリーナ、スタンピード・コラール会場などで開催 された。

　※(1988.4.11CALGARY'88　ベースボール・マガジン社　参考) (1994.7.20「近代オリンピック100年の歩み」ベースボール・マガジン社　参考)(NHKBS 「リレハンメル'94　雪と氷のヒーローたち」　参考)(カタリナ・ヴィット公式サイト　参考) (1994.8.15「メダルと恋と秘密警察　ビットが明かす銀盤人生」文藝春秋　カタリーナ・ビット著　 畔上司訳　参考)