黄昏
  
   ジェーン・フォンダ、ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘプバーン

※ストーリーの結末を載せていますので、映画をご覧になっていない方は、ご了承下さい。

 
記号[☆:スタッフ・キャスト : 始めに] web拍手 by FC2
(1981)(米)-On Golden Pond-
監督…マーク・ライデル
製作…ブルース・ギルバート
製作総指揮…マーティン・スターガー
原作…アーネスト・トンプスン
脚色…アーネスト・トンプスン(ア カデミー脚色賞)
撮影…ビリー・ウィリアムズ
音楽…デイヴ・グルーシン
出演…ヘ ンリー・フォンダ(ノーマン)(ア カデミー主演男優賞)
………キャ サリン・ヘプバーン(エセル)(ア カデミー主演女優賞)
………ジェー ン・フォンダ(チェルシー)

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 迫り来る死に触れる年 老い た夫、それを避ける妻。
  それぞれが健忘と死を恐れている。
  死神をみて初めて向き合うことに気付く妻、分かって貰えて落ち着きを取り戻す夫。

  2羽のアビが連れ添って泳いでいる。
  巣立った子の成長を喜んでいるみたいにゆったりと。
  それは老夫婦の姿だった。
  素晴らしいラストシーンだ。

  長い間、確執があった父娘は娘(ジェー ン)が前に踏み出せないでいた親子関係に背面 飛びにチャレンジす るという姿で表す。
  それを娘を愛していながらどういう風に接していいのか分からないでいた父親が見て受け止め、父娘の間にあっ た蟠りがとける。
  フォンダ父娘は、この作品のように実生活でも結び付きを取り戻す。

  アビを見る老夫婦の姿や孫をひとり立ちさせることに喜びを見出そうとする祖父。
  娘と父親を向き合わせようとする母親。
  内容が深い作品だ。

 『招 かれざる客』ス ペンサー・トレイシーキャ サリン・ヘプバーンのように、ヘ ンリー・フォンダキャ サリン・ヘプバーンの名演が楽しめる。
 それにジェー ン・フォンダの熱演も。

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2005 年のアクターズ・スタジオ・インタビューでジェー ン・フォンダが語った中に、確執があった父に「友達になりたい」と言う重要なシーンが撮られる日にどうしても涙が出てこなかったそうだ。
そのとき語ったのを載せる。

「初めて脚本を読んだ時から 最後 のリハーサルまで毎回
この場面になるたびに 涙があふれ出た
実生活では絶対 父に
言えないセリフだったから
本番の朝なんて 声にならなかった」
「そこで まず父を撮ったの
私は父に心から感じて 演じてほしかった
最後の映画になると 分かってたの
父はアドリブが大嫌いで
何もかも リハーサルどおり
でないと許せない人だった
でも 最後のクローズアップ
“友達に…”の所で 私は
本番で初めて 父に触れたの
父は動揺した
私には はっきり分かったわ
感情がこみ上げ 思わず横を向いたの
ジェー ンは流れ出た涙を拭い話を続けた。
「私には かけがえのない
経験だった」
「そして 私の番に
私の役にとっても重要だし 個人的にも意味深い場面よ」
身を乗り出し声を潜め両手を広げて会場の生徒たちに話す。
なのに 肝心の本番で
涙が出なくなってしまった
1滴も出ないの
“リー・ストラスバーグは どこ?”
“五感の記憶は?”
ふだんなら 歌うと泣ける」
両手で力を込め、
「曲も全く効果がない」
声を落とし、
「慌てたわ」
横を向き鼻を啜る。
本題に入る表情になる。
「そして いよいよという時
なんとキャサリンが現れた」
流れ落ちる涙を指で拭きながら、
呆れた表情をして、

「出番もないのによ」と 手を前に差し出し話す。
生徒たちから笑い声が起きる。
流れ落ちる涙を指で拭くジェーン。
キャサリン・ヘプバーンの口真似をして、
「彼女は“順調?”と」と 言う。
笑いが起きる。
横を向き、続きを話し出すための呼吸を整える。
「私は “涙が出ないの
でも父には言わないで”と」と 涙声になって話す。
「やがて準備が整い 私は皆が
おぼれてくれたらと思ったわ」
流れ落ちる涙を指で拭くジェーン。
「本番が迫り すごく怖かった」
その時の感情が蘇り、涙が溢れてくる。
それを拭いながら、
「私は監督に
“カメラが回る前にー”
“後ろを向いて 準備したい”と」と 手真似をしながら言う。
「何の考えもなく 後ろを向いた
背後にボート 正面は茂み
顔を上げると
キャサリンが茂みの中に」
笑いが起きる。
その生徒たちの方に体を向け、
「こんな感じ」と 両手を前に出し拳を強く握り締める。
笑いが起きる。
拳を強く握り締め続ける。
それを見て、また笑いが起きる。
更に、強く握り締め上下に動かし、
「彼女は母親として」
握 り締めている指を一つ開いて示し、
「“あなたならできる
頑張って ジェーン”と」と、拳を強く 握り締め上下に動かし感情を込める。
拳 を握り締めたまま、
「また 先輩として
私の心境を理解し
見守ってくれていた
そして 同じ女として
拳を震わせ 私が演じられるよう念じてくれていたの」と 涙を一杯浮かべて何度も上下に強く握り締めて話していた。
キャサリンへの感謝が込められていた。

また、こ のようなことも話していた。
この作品でキャ サリン・ヘプバーンが4度目のアカデミー賞を受賞したことを祝おうと電話したところ、キャサリ ンから開口一番に返ってきたのが、
“これで追いつけないわよ”
だったという。
それまで2回受賞していたジェー ンもノミネートされていたからだ。
最多受賞(4回)しているキャ サリン・ヘプバーンジェー ン・フォンダをライバル視していたということだ。
ジェー ン・フォンダが同世代や 後輩に目標とされるだけでなく、大先輩からも一目置かれていたという話は納得させる。

ジェー ンの父ヘ ンリー・フォンダの浮気を苦にして母フランセス・ブロッカウ(ヘンリーの2度目 の妻)は自殺したそうだ。
ジェーンが12才の時だ。
母の死後わずかで新妻を迎えた父への反感からジェー ンは屈折した青春時代を過ごしたという。
父との和解は初めての共演でヘ ンリーの遺作となったこの作品であった。
父の最後の作品になるような気がしたジェー ンは、この作品を成功させようと積極的に動いた。
フォンダ父娘を彷彿させるストリーだったからだ。
名優でありながらオスカーに縁のなかったヘ ンリー・フォンダが初めてアカデミー賞を受賞した。が、授賞式の時はヘ ンリーの病状は思わしくなく、ジェー ンが代理で受け取り、その夜自宅の病床へ届けた。

ジェーン は父に最後に会った病院で、
「愛してるわ パパ
苦しめてごめんなさい
精一杯 やってくれたわ
感謝してる」と 言い、父に尽くしてくれた奥さんは永遠に家族だと約束した。
父は泣き出したという。
それを見られたくないと分かってたから、部屋を出たと話したジェーンの瞳は涙で潤んでい た。(2005年 ジョン・L・ティシュマン劇場で録画された アクターズ・スタジオ・イン タビューでジェーン・フォンダが自らを語ったものから 参考)

アカデ ミー賞を受賞した5ヶ月後にヘ ンリー・フォンダは亡くなる。

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2010 年11月30日、「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由  キャサリン・ヘプバーン〜」の放送(NHKhi/PM10:00-PM11:30)で紹介されたのを載せる。
脚本家アーネスト・トンプソン。
“キャサリンは独特だった
それが彼女のすばらしいところで
だから 60年間ものキャリアが築けたのだろう
自分自身であることを 恥ずかしがらなかった
スペンサーが病気だったとき キャリアを中断して
5年間 彼の面倒をみたことは知っているだろう
彼女は自信があったからこそ 続けることも
中断することも できたのだと思う
キャサリンは 常に男性の扱いがうまくて
コケティッシュな面があった
一緒にいる人を安心させ リラックスさせた
彼女がとても温かく 包容力があったことに
感謝してるし 僕は幸運だったと思う”
“この物語は 徐々に認知症の症状を見せ始める夫と
それを支える妻の話なんだ”
夫が認知症であることを知った妻がとる行動でキャサリンと議論になったという。
“僕は あの部分にセリフはいらないと思っていた
老人が森で迷子になり 戻ってきて
彼も妻も黙っている それでもお互いに
通じ合えていることがわかる というふうに
でも キャサリンは それをセリフで
はっきりさせたがった
彼女の案を聞いたとき ちょっと抵抗したけど
彼女が望むことを できる限り詩的に表現した
そのセリフが”すばらしい映画セリフ100“に選ばれたんだ”(NHKhi 2010.11.30放送「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由 キャサリン・ヘプバー ン〜」より 抜粋)

『黄 昏』より
エセル「安心して
大丈夫よ
毒舌だって いつもどおりよ
後でー
お昼に いちごを
食べちゃったら
一緒に旧道へ行きましょう
何千回も行った道だもの
きっと
きっと思い出すわ
ねえ 聞いて
あなたは私にとって
輝ける騎士よ
馬の上で あなたに
しっかりつかまるわね
一緒にどこまでも
行きましょう」
ノー マン「馬は嫌 いだ
ずいぶん年をとった姫だな
なぜ こんな老いぼれと暮らす」
エ セル「さあ
なぜなのかしらね」

キャ サリンに直接出演を依頼したのは、娘役を演じるジェー ン・フォンダだった。
共演する実の父ヘ ンリー・フォンダとの間にあった確執を乗り越えるためには、キャサリンの力が必要だと考えたか らだ。
ヘンリーはス ペンサー・トレイシーを敬愛し、彼を長年支え続けたキャサリンにも尊敬の念を持っていた。(NHKhi 2010.11.30放送「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由 キャサリン・ヘプバー ン〜」より)

監督マー ク・ライデルがヘンリーとジェーンの確執がそのまま持ち込まれた撮影現場のことを話す。
”映画の撮影が始まった当初
ふたりは全然話をしようとはしなかった
ヘンリーはジェーンの左翼かぶれに怒っていた
それで ふたりは仲たがいした
ヘンリーは人に心を開くのが苦手だった
自分を見せない 慎重な人なんだ
私とジェーンとキャサリンは 彼に
親愛の情や敬意を示して働きかけた
キャサリンは撮影の準備やリハーサルの合間に
よくスペンサー・トレーシーの話をしてくれた
私はそのうち ヘンリーが仲間はずれに
されていると感じていることに気づいた
スペンサーは彼女が愛した人だ
私は彼女を呼び出して頼んだ
「もうスペンサーの話はやめて
ヘンリーの話をしてくれないか
彼は疎外感を感じているよ」
1日が終わるころ 彼女はスペンサーの帽子を
持ってやってきて それをヘンリーに渡した
まるで「今 私の相棒はあなたよ この帽子は
あなたのもの」と言っているようだった
彼は感激し 誰にも見られないように
物陰に隠れて泣いていた
キャサリンに スペンサーの帽子をかぶってと
言われ ヘンリーはそうしたんだ“
”キャサリンは驚くほど協力的に ふたりが
仲直りできるよう励まし 手助けしていた
ボートに乗ったヘンリーと水の中のジェーンが
重要な会話をするシーンでは
キャサリンは カメラの後ろから見ていて
こうやって 視線で励ましていた“(NHKhi 2010.11.30放送「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由 キャサリン・ヘプバー ン〜」より 抜粋)

『黄 昏』より
チェルシー「本来の関係に戻りたいの」
ノーマン「どんな 関係?」
チェルシー「つまり 父と娘らしい関係」
ノーマン「いざと いう時の話か?
あの世に持っていけるもの以外は
みんなお前に くれてやるさ」
ノーマンの傍に来て、
チェルシー「やめて
そんなことじゃないの
もういがみ合いたくないの」と 胸のうちを曝け出すチェルシー。
ノーマン「お互い 好きになれないだけだろ」と言うノーマン。
チェルシー「友達になりたいの」と 言い、涙を流すチェルシー。
ノーマン「もっと 頻繁に来れるのか?」
ノーマンに触れるチェルシー。
感情が込み上げ、思わず顔を手で覆いながら、
「母さんに会いに」と言うノーマン。
涙を流しながら、
チェルシー「ええ 来るわ」と 言うチェルシー。
頷くノーマン。

キャ サリンが父ヘンリーを亡くしたジェーンに宛てた手紙。
”親愛なるジェーンへ
長い闘病の末 とうとう人生の幕が下ろされたのですね
あなたの心の中は 引き裂かれていることでしょう
でも 一方で ヘンリーに平和が訪れたことを
感謝しているのではないでしょうか
あなたが ヘンリーに
素晴らしい喜びと 尊厳をもたらし
彼は あなたへの愛で満ち足りていました
それが 何よりも素敵なことだったと思います(NHKhi 2010.11.30放送「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由 キャサリン・ヘプバー ン〜」より)
その手紙を読んだ監督マーク・ライデル。
”なんてすてきな手紙なんだ とても感動的だ
私も長く生きているが キャサリンのような
人に出会ったことは一度もない
誰も 彼女の足元にも及ばないよ
本当に特別で とても思いやりのある人だった
彼女は 周囲の人を楽しませる人だ
彼女と一緒にいると すごく楽しい
私たちは家族になった 映画に関わった
みんなが撮影中に ひとつの家族になった
全員が 新しい歴史的な価値のある
映画を作っていると感じていた”(NHKhi 2010.11.30放送「永遠のヒロイン その愛と素顔 〜私が愛される理由 キャサリン・ヘプバー ン〜」より 抜粋)

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参考文献
キャ サリン・ヘプバーン
ジェー ン・フォンダ
ヘ ンリー・フォンダ
洋画
サ イトマップ
映 画ありき2
映画あり き

〜 クラシック映画に魅 せられて〜

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