美女ありき

※ストーリーの結末を載せていますので、映画をご覧になっていない方は、ご了承下さい。

記号[☆：スタッフ・キャスト　→： 始めに　←：終わりに]

　ヴィ ヴィアン・リーの品格・愛らしさが才色兼備を謳われた伝説の人レディ・ハミルトンこと エマ を堪らなくいとおしい女性像にした。
　ヴィヴィアンが「私の生涯で最も幸福な時期」と言っていたように、情熱的な愛情表現は、完璧な美しさで迫って く る。
　出演作品の中で一番、美しいヴィ ヴィアンを堪能でき る作品だ。

映画は、雨上がりの黄昏どき、港町カレエの石だたみの道を、やつれ果てた老女(ヴィ ヴィアン・リー)がさまよっている処から始まる。

老女は人目をかすめて酒びんを盗み、憲兵に捕らえられ手荒くされる。
そ れを見ていた群衆の中の英国女が同胞を助けようとして騒ぎになる。

一緒に捕らえられ、留置場で英国女は老女に名を尋ねる。
老 女はしわがれた声で、
エ マ･･･「エマ」
英 国女はさらに名字は？
エ マ･･･「名字？　レディー・ハミルトンよ」と。
そ して、エマ(ヴィ ヴィアン・リー)は過ぎ去った遠い日々の思い出を語り始める。
　このヴィ ヴィアンの声を潰した喋り方、様相に驚いた。

ナポリの英国大使館を訪れたエマは、チャールズが突然婚約を破棄したことをハミルトン 卿から聞かされて、ただ呆然自失する。

チャールズを愛していた彼女は悲嘆にくれる。

ハミルトンはいやしい身分の生れであると承知のうえで、エマに交渉する。
ハ ミルトン卿･･･「一緒になってくれるなら　 大使夫人として何不自由ない生活を約束する」と。

エマは、信じられない交渉と捨てられた悲しみに暮れるが、やがて交渉を受け入れる。

レディー・ハミルトンとなったエマは、今や宮廷の出入りも出来るようになっている。
何 不自由ない生活だ。が、満たされていない。
そ んな、エマの前に英海軍の若き勇将ネルソンが現れる。
ネ ルソンは、
ネ ルソン･･･「ツーロンの占領を維持するため 　ナポリ王に至急一万の援軍を懇請してほしい」とハミ ルトン卿に依頼にきたのだ。
祖 国のために戦うネルソン提督に、激しく心を動かされたエマは、卿の力ではどうにもならないことを察知して、 日ごろから親しい間柄のナポリ王妃にかけ合って、即日一万の軍隊を出動させることに成功する。

ネルソンは深く感謝してナポリを去るが、エマを見た瞬間からあまりの美しさに息をの み、その快活さに惹かれ、その面影を強く胸にやきつけた。
こ れを契機にふたりの愛は深まってゆく。
だ が、ネルソンには妻があり、エマには夫があった。
　ハミルトン卿にネルソンを紹介された時のヴィ ヴィアンの「キャプテン」という発音の響きの美しいこと。

エマの働きによってもたらされた吉報を持って、艦船にネルソンを訪ねる。
そ こで、目にしたのは輝かしい勝利の代償として、彼は右眼と右腕を失っていた。
　驚きのヴィ ヴィアンの目の動きがい い。

しかし、ネルソンは浮かれている場合ではないと国王に直訴する。
疲 労を隠していたネルソンは、心配するエマの前で倒れる。
そ して、エマが看病する。

回復してきたネルソンは、妻への手紙の代筆をエマに頼む。
　ヴィ ヴィアンが代筆している この場面の所作に知性が溢れている。
　素晴らしい。

ナポリを救うため、いや、エマを助けるため戻ったネルソンが、またも、戦場に赴くこと になる。
別 れを惜しみ、抱擁しキスを…
1799 年の大晦日から1800年の新年の二世紀に渡るキス。
　ネルソンを見詰めるヴィ ヴィアンの表情の素敵な こと。
　実生活と重なり合う抱擁に妬ける。

成果をあげて戻ってきたネルソンは熱烈な歓迎を受けている。
ネ ルソンを感慨深く見詰めているエマ。
だ が、そこにはネルソン夫人の姿もあった。
エ マはネルソン夫人と目が合う。
夫 人は冷ややかだ。
エ マは動揺を押し隠し、
エ マ･･･「レディー・ネルソン？
エマ・ハミルトンです」と。
　細やかな演技が惹き付ける。
　
そ して、会席の場へ。
　食事の席でのヴィ ヴィアンの表情の美しい こと。
　気品溢れる。

エマの存在が面白くない、ネルソン夫人は気高く冷静にエマを疎外する。
　ネルソン夫人に冷たくあしらわれたヴィ ヴィアンの暗闇での表情 が見事だ。
　日陰の身であることを表現している。
心 配して寄って来るネルソンをさえぎり部屋へ入って行くエマ。
　この時の、ヴィ ヴィアンの頭を横に振る 仕草、モー堪らない。
　哀しい。
　エマの置かれた立場をわきまえた演技をヴィ ヴィアンは見せた。

身を引いてひそかにネルソンの子を産もうとしているエマをネルソンが探し出し、訪ねて くる。
　私の一番好きな場面になる。
訪 ねてきたネルソンは何か隠し事があるのではないかと疑っている。
そ のようなとき、手紙がくる。
そ の手紙をそっとしまうエマ。
ネ ルソンは疑い、
ネ ルソン提督･･･「私達の間には 隠し事はないはずだ 見せてくれ」と言い 寄る。
一 度は拒むが、その手紙を手渡す。
　この時、この仕草だ。
　品格・知性を漂わせた一連の流れの美しさは例えようがない。
　この場面を何度繰り返して観たことか。
そ の手紙は、請求書であった。

エマは、
エ マ･･･「脅しに召喚に裁判ざた
その挙句ピカデリーを追い出され
家賃を催促されるから　娘に会いにも行けない
仕事に戻ることにしたの　それしかないわ
夫の遺産はないから」と話し 出す。
悲 惨な生活を送っていることを知ったネルソンは、軍服を捨ててエマと愛の生活を送ろうと決意する。

やっと、訪れた二人の生活。
そ れも、つかの間、ハーディ艦長が訪ねてきて、
ハー ディ艦長･･･「祖国の存亡をかけたトラファルガーの大海戦が起りそうで　ネルソンを必要と している」とエマ に告げる。
エ マ ･･･「ずっと協力してきたけど　今度だ けは　だめよ
別の人にして　彼に頼まないでほしいの
もう十分に働いたわ
腕と視力を失った　休ませてあげて
初めて訪れた幸せよ　守ってあげたいの」と断るが、ネ ルソンのことを思い行かせる。

ネルソンは英国を勝利にみちびいて、壮烈な戦死をとげる。
ハー ディ艦長がネルソンの凶報をなかなか口にすることが出来ず、途切れ途切れに語る。
察 知したエマは気丈に振舞う。
動 揺し目が見ひかれ、絶えている。
言 葉もでない。
ハー ディ艦長が帰ると呆然として立ちあがり、静かに窓の帳をしめる。
そ して、遂に耐えかねて失神する。
　ヴィ ヴィアンの見事な演技 だ。

再び留置場へ。
英 国女･･･「それから？」
エ マ･･･「“それから”？」
英 国女･･･「どうなったの」
エ マは憔悴しきった表情で、
エ マ･･･「“それから”はないの
それで終わり」
エ マの表情を強烈に妬きつけながら終わる。

　見終わっても立ち上れない。
　生身の演技に遭遇したときに、味 わう体験、感慨、それだ。
　ヴィヴィアンの出演した作品は、どれも生々しい。
　『欲望という名の電車』『ローマの哀愁』『アンナ・カレニナ』などなど。
　いや、『アンナ・カレニナ』はグ レタ・ガルボなど他の役者も演じている。
　作品が生々しいのではない。
　ヴィヴィアンその人、自身が生々しいのだ。
　そのまま演技に結びついている。
　『美女ありき』は、ヴィ ヴィアンとオリヴィエの それ ぞれの相手が、やっと離婚に応じて、晴れて結ばれた後の最初の作品である。
　ふたりの思いがそのまま画面に満 ち溢れている。
　至上の愛に結ばれたふたりは、後 世に残る数々の舞台、映画に共演して、「世界で最も素晴らしい芸術家夫 婦」と謳われた。
　それを映像に残してくれた作品 だ。
　オリヴィエの演技は舞台の役者的で大げさだが、ヴィ ヴィアンの演技は細やか なと ころまで行き届いている。
　オリヴィエと、演劇に、燃えるような情熱を注ぎ、身を委ねたヴィ ヴィアンは現実と重ね合 わせ て迫ってくる。
　ウィンストン・チャーチルの一番気に入りの映画がコルダ卿の 作った この作品で、ローレンス・オリヴィエ扮するネルソンと亡きヴィ ヴィアン・リーのハミル トン 夫人の恋愛物語を何度も繰返して見ては、そのたびに涙を流していたそうだ。

『美 女ありき』ヴィヴィアン・リー

『美女ありき』ヴィヴィアン・リー

『美女ありき』ヴィヴィアン・リー

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参考文献
ヴィ ヴィアン・リー
ヴィ ヴィアン・リーバイオグラフィー
『哀 愁』
『風 と共に去りぬ』
シ ネマトーク『風と共に去りぬ』公開前後
シ ネマトーク『風と共に去りぬ』コスチューム
シ ネマトーク『風と共に去りぬ』出版前後
シ ネマトーク『風と共に去りぬ』ミュージック
シ ネマトーク『アンナ・カレニナ』
『欲 望という名の電車』
シ ネマトーク『愚か者の船』
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映画あり き
映 画ありき2
〜クラシック映画に魅 せられて〜